2014年10月15日水曜日

趣味の音楽

 

音楽を好きな人たちは数多いけれど、近年CDはなかなか売れず、長い間音楽業界を支えてきた大きな市場が崩れていると言われています。試みに、昨年一年間に一世帯あたりが音楽メディア等の購入に使った金額を調べてみると、全国平均で3,466円でした(統計局家計調査より、単身および二人以上の世帯)。この金額には映像メディアも含まれているので、実際に音楽メディアにかけた費用はもっと少ないかもしれません。これは私が予想していた以上に小さな数字でした。ちなみに、音楽メディア購入も含めた趣味や教養、娯楽に使われている費用の一年間の合計金額は326,187円。習い事、旅行、映画、観劇、ゴルフなどなどです。

ちょっと細かいのですが、同じ家計調査によると一年間でお菓子に67,168円、お酒類に36,086円、服や靴に126,872円、たばこに14,371円、基本的な衛生以外の美容(エステなど)に29,765円、そして使途不明のおこづかいは93,355円ありました(こんな分類もあるのですね)。諸々の費用を足し合わせると、世帯あたり一年間、平均ではありますが70万円くらいは自由に遣い道を決められる趣味嗜好の予算があると考えられます。それなら、もっと音楽にも時間とお金を使ったら楽しいのでは!と思ったりもします(人の勝手なのですが)。ちなみに家計調査では、シュウマイにかける費用は横浜市がやたら高いとか、喫茶に費やす金額は名古屋市がすごいとか、そんな数字も出ていて面白いです。

 

かく言う私は最近、音楽の趣味に文字通り惜しまない出費をしました。音楽アルバムのパッケージをとても本格的につくったのです。それはこの10年位ずっとやりたかったことで、お気に入りの雅楽のアルバム5つを一つのコンセプトのもとに、完璧にデザインされた「うつわ」に包む。ご縁とタイミングを密かに見計らっているうちに、いつのまにか10年が経ちました。

念じて動けば叶うもので、自分の頭に描いていたことを間違いなく形にしてくださると確信できる、素晴らしいグラフィックデザイナーの小磯裕司さんと運良く出会い、音楽は雅楽師の長谷川景光さんにご協力をいただき、本当に形にすることができました。完成したものがこちらの写真です。*中身も是非こちらからご覧ください⇒  小磯裕司氏のHP内

 

GagakuCD01

 

完全に私個人のためだけの制作物なのでもちろん非売品なのですが、実際に完成すると思いがけず「売って欲しい」という声をいただくこともあり、嬉しい驚きです。そのような方とは、何かその方の手による「モノ」と交換しています。

 

振り返ってみると、アルバムのコンセプトを明確にしたり、音楽のうつわに合う素材を考えたり、音楽という「実体」の無いものをどうやって「形」で説明するかを思案したり・・という作業を、お気に入りの音楽を幾重にも堪能しながら楽しむことができ、一つひとつ思い出すたびに何とも愛おしい時間です。また、アルバムづくりを通して様々な出会いもありました。さらにつくってみてはじめて、私が思っていた以上に、雅楽に興味をもっている方が世に潜在することに気が付きました。

あまりにも素敵な時間だったので、今度は録音からつくろうと目論んでいます。昔と違って、いまは音楽アルバムをつくることが限られた人たちだけのものではなくなっています。CDという形にするのも良いし、web上で映像と音楽を組み合わせた作品をつくることもできるでしょう。趣味や考えの合う友人たちが集まれば、年間の各人の「趣味の予算」からいくらかを音楽に割り振って、それはそれは愉しい時間を一緒につくることができます。音楽会を催すのも良いし、音楽アルバムをつくるというのも勿論ありです。好きな音楽や音楽家を深堀りする、音楽を通して一つのテーマを考える、音楽それ自体の魅力を果てしなく探る・・これだけでも充分に素晴らしい時間なのですが、さらにそれをつくり手と受け手がダイレクトに共有し、まさに人生のアルバムの1ページに残せるのですから、こんなに良いことづくめの趣味はなかなか無いと思います。もちろん実現が難しい場合もあるでしょうけれども、やってみると心に描いていたことを形にできるかもしれません。

来年の予算、是非ご検討下さい。


[ご紹介]
 ◎グラフィックデザイナー 小磯裕司氏のHP「KOISO DESIGN」
  現在北京在住の小磯裕司さんは、日本だけでなく中国でもクリエイティブディレクターとして活躍されています。私の音楽アルバムのデザインをご依頼したのは、小磯さんがデザインの圧倒的な技術だけでなく、文字への深い情熱と豊富な知識をお持ちだからでした。文字はときに、言葉では言い表せないことを伝える手段になり得ます。アルバムをひと目ご覧になるとすぐに気づかれることと思いますが、このアルバムでは音楽(雅楽)の世界が「言葉」ではなく「文字」によってあらわされています。そのために、今回オリジナルの書体をつくってくださいました。

 ◎「文字がことばを超えるとき 小磯裕司デザイン展」
  今月から、小磯さんの作品展が北京Town Art Museumで開催されます。
  ・会期:2014年10月23日−11月23日 10:00-18:00 入場無料 会期中無休
  ・会場:Town Art Museum 北京市朝陽区建外SOHO西区15号楼1F1501
   email: townartmuseum@hotmail.com  tel: +86-10-57289856

 ◎雅楽師 長谷川景光氏のHP
  長谷川景光さんは、古代、中世の雅楽の研究家であるとともに、平安朝雅楽の横笛、大篳篥、楽琵琶、そして古代神楽の神楽笛の演奏家でもあります。奈良、平安時代の管絃や舞の流儀を伝承、普及するための活動に取り組まれています。また、平安時代に栄えながら江戸時代半ばに廃れてしまった香道の原点である「薫物香道」の復興、普及活動もされています。

[参考]
 ◎政府統計の総合窓口
  
[関連記事]
 ◎「整える音楽」
  雅楽の音とカラダ、方角、惑星や季節など森羅万象とのつながりをあらわす五行思想をご紹介しています。

2014年10月2日木曜日

太陽系時空間音楽

 

10日ほど前、インドのダージリン地方にある茶農園で収穫してつくられた紅茶が、インド史上最高値で取引された、という記事をみました。価格は1kgあたり1850ドル(約20万円)。「ザ・リッツ・カールトン東京」では、この紅茶がポット1杯45ドル(約4900円)で提供されるそうです。

一番興味深かったのは、この茶葉が高く売れた理由が「宇宙」に関連している、という点でした。茶園の園主によると「6月の夏至の直前の満月の夜、午前12時01分から午前3時までの間に、およそ500人の女性が一斉に茶葉を摘んだ」「満月の晩に摘み取られた茶葉は、特別に優れた茶になる。特に、今年の6月13日の満月の夜は、天体の配置が108年に一度しか訪れないユニークなものだった」。(The Huffington Post 2014年09月22日)


◎宇宙のリズムで育てる

この茶農園では、独特な有機農法でお茶を栽培しているそうです。自然との共生を基礎に、天体の動きを利用しながら最適なタイミングで動植物などからつくられる特別な堆肥を土にすきこみ、また最適なタイミングで収穫をするというもの。

新しいコンセプトのようにみえる“宇宙的有機農法”ですが、特別めずらしいものではありません。農家にはもともと経験的に積み重ねられてきた知恵があり、日々の農作業と暮らしの中には経験の結果として、宇宙と調和したトキ=暦が自然な形で伝承されてきました。日本では、奈良時代に中国から太陰太陽暦が導入されるよりもはるか昔から自然暦があって、いわば宇宙のリズムで様々な兆しをつかみながら衣食住が営まれていました。江戸時代末期には幕府公認のものだけでも450万部の暦が出版されていて、これほど暦が普及していた国は世界でも珍しいといいます。おそらく、中国から輸入された暦と古来の自然暦に、積み重ねられてきた知恵をうまく組み合わせながら、宇宙のリズムと調和したお茶や野菜をつくっていたことでしょう。


◎古くて新しい暦

最近、二十四節気や七十二候を見直す動きとともに、暦の本を数多くみかけます。自分のライフスタイルに合わせた暦を使う人も増えているようです。ちなみに、私は花や野菜を本格的に育てるようになったことがきっかけで、5年位前からグレゴリオ暦とは違う暦も生活に取り入れるようになりました。次第に、以前よりも日々の月の満ち欠けや「節目」に心が及ぶようになって、自然の「兆し」や風物の「名残り」を意識するようになっただけでなく、自分の新たな時間軸を手に入れたような感覚があります。



◎遥かなトキを、俯瞰する

ところで、最近出逢った暦に「太陽系時空間地図 地球暦」(ちきゅうれき)というものがあります。これは、壮大な太陽系の時空間を1兆分の1に縮尺、A1のポスターサイズで表したものです。太陽を真ん中に、その周囲をまわる太陽系惑星の軌道を円で描いてある、まるいカレンダー。太陽系を俯瞰して眺めることができます。地球の軌道を一周するとちょうど一年です。日々動いている星々と自分(地球)の、変化する位置関係を眺めながら、いまここにいる自分と宇宙はつながっていて、リズムを共にしているという実感が湧きます。それにしてもA1の1兆倍って・・夜空の星を見上げながらため息をついてしまうほどのスケールですが、この時空間を部屋で気軽に体感できるというのがとても魅力的です。

実は、この「地球暦」の時空間地図を音楽にしたものがあります。その名も「太陽系時空間音楽」。

 

太陽系時空間音楽2014


◎惑星が音を奏でる

この音楽をひと言でいうと、太陽系の一年間を譜面に見立て、天文現象を音楽にして奏でたものです。一年を1/10800に縮尺して、1秒=3時間、8秒=1日の速度であらわし、48分40秒で地球の一年の運行が一曲の音楽として再現されます。その音楽が奏でるリズムはヒトの心拍数や呼吸に近い感覚で、地球の動きをカラダで感じられるようになっています。さてその音楽は、いったいどんな音でかたちづくられているのでしょうか?


◎深く、遥かな音

一日の区切りは鈴の“チリーン”の音。また、二十四節気の節目や月の満ち欠けは、太鼓やカネの音で印象的に表現されています。特に楽しみなのが、惑星同士が出会うタイミングに聞こえる、低周波の倍音がうなる音です。少々マニアックなのですが、太陽系の各惑星の平均公転周期が周波数の特性で再現されているのだそう。言葉だけで説明するとちょっと難しそうなのですが、カラダの内側にまで伝わる音の震えに身を任せていると、変化が少しずつ感じられます。


◎2014年の音宇宙

「太陽系時空間音楽」は、2012年以来、毎年発表されています。今年の初夏に発売された「太陽系時空間音楽 OP-004 2014」は、2014年3月21日の春分からの一年間が一つの楽曲になっています。実際のところ、毎年惑星の巡りあうタイミング(太陽系時空間に描かれる地図=譜面)が違うので、その年ならではの音楽ができあがります。2014年の音の特徴は、惑星に派手な動きがないこと。「内に入っていくような雰囲気の時空間」が天文現象の譜面に描かれているといいます。これから次第に惑星の動きが変化しながらムードが高まっていき、太陽と月、そして地球が滅多にない巡り合いをするのが、東京オリンピック開催年の2020年なのだそうです。どんな譜面、どんな音宇宙が描かれるのか楽しみです。

頭のなかを整理したいとき、ひと月の始まりでも終わりでもある新月の日、旅先で自分をリセットするときなどに聴くのがおすすめです。車の中で流してみると、宇宙旅行気分を味わえるかもしれません。

 

[おすすめ]

 ◎「太陽系時空間音楽 OP-004 2014」deepsheeprecords
 ・CD(Amazon)
 ・視聴(SoundCloud)

 ◎太陽系時空間地図 地球暦HP
  
 ◎「太陽系時空間地図 地球暦 2014年度版」HELIOCOMPASS(Amazon)
  太陽系を1兆分の1に縮尺してA1サイズに収められた時空間地図。毎日カレンダーの日付に書かれた数字と曜日を追って生活をしていると、年のはじめから年末に向かってまっすぐに時間が流れていくように思えますが、実際のところ地球は丸く、年月も一日もまるい円を描いて回っています。私たちも星々と共にめぐる宇宙の一部であることを自然に理解できるのが、この地図の最大の特徴。円環する永遠のトキを感じながら過去・現在・未来を考える暦です。ちなみに「太陽系時空間音楽」は、この地球暦からはじまった“feel art helios”というアートプロジェクトの一環で生まれた作品です。

 ◎地球暦facebookページ
  二十四節気や月の満ち欠け、星々の巡り合いなどの「節目」ごとに、そこに秘められた本質的な意味を知ることができます。節目にふと立ち止まって考える、あるいは考えない時間を与えてくれます。

 ◎今後のイベントの予定
  2014年10月25日(土)-11月2日(日)
  「あそび feel art helios #4 太陽系時空間地図 地球暦」
  場所:gallery feel art zero(名古屋)
  地球暦のトークイベントや宇宙座談会の他、音と造形、映像を組み合わせて生まれる“宇宙の音風景”を楽しむライブなど、盛りだくさんの催しです。詳しくはgallery feel art zeroのHPからご覧ください。*イベントの参加は要予約です


[写真]

 ◎「太陽系時空間音楽 OP-004 2014」のCDジャケットより


[参考]

 ◎「和暦日々是好日」LUNAWORKS
  

[関連記事]

 ◎「整える音楽」
  「太陽系時空間音楽」で真っ先に思い出したのが、東洋的な宇宙観を音形にした雅楽です。音とカラダ、方角、惑星や季節など、森羅万象とのつながりをあらわす五行思想をご紹介しています。

 ◎「リズムの本質」
  「リズムの喜びはどこからくるのか」宇宙が奏でる永遠のリズムを感じながらお読みください。

 ◎「永遠を刻む」
  円環する永遠のトキを刻むインド音楽をご紹介しています。

 ◎「深呼吸と音楽」
  海のリズムと、かつて魚だったヒトのつながり、そして宇宙との切っても切れない関係について書いています。