2014年8月2日土曜日

万葉植物をいける:姫百合・朝顔(桔梗)・薄

本日は旧暦で文月七日の七夕、笹の節句です。
そこで七夕をテーマに、万葉植物で星空の模様をいけました。姫百合を織姫星に、朝顔は彦星に。絹糸のような雄しべの唐糸草を白鳥座のデネブになぞらえると3つをつなげて「夏の大三角」になります。そして、夏の大三角を横切る天の川はドウダンツツジ。漢字で「満天星」と書くように、まさに天に降る星のように広がる枝葉がぴったりです。さらに、織姫と彦星が晴れて逢えますようにと、叶結びにした五色の紐をぶらさげました。
※唐糸草と満天星(ドウダンツツジ)は万葉植物以外のものです。また、薄には「矢羽薄」を用いました。

 

DSCN1706


◎姫百合

夏の野の繁みに咲ける姫百合の
知らえぬ恋は苦しきものそ

巻第8 大伴坂上郎女

「夏の野の茂みに密やかに咲いている姫百合のように、相手に知られぬ恋は苦しいものです」

小さく可憐な姫百合は、この歌にあるように草の茂みに隠れていてなかなか見つけることができない花です。奈良の曽爾高原などでは自生の姫百合がいまでも咲くといいますが、大伴坂上郎女のみた姫百合の咲く風景は、いったいどのようなものだったのでしょう。

百合は、風に「揺れ」るところから転じて「ゆり」と呼ばれるようになったそうです。咲く花は乙女の微笑みにたとえられ、花笑みの百合と称されます。


◎朝顔(桔梗)
万葉集の「あさがほ」がいったいどの花のことを指すのかには諸説ありますが、桔梗が有力といいます。桔梗は枝を切ると白い乳液が出てきます。古来、母の乳を思わせる乳液の出る植物は、聖なるものとされてきたそうです。

 

あさかほは朝露おいて咲くといへど
夕かげにこそさきまさりけれ

巻第10 作者未詳

「朝顔は朝露を置いて美しく咲くというけれど、夕暮れの露が宿る頃にはいっそう美しさが優るものなのですね」

彦星になぞらえていけた桔梗の蕾はちょうど五角形をしていて、五弁の花びらを五芒星のようにひらいて咲かせます。


◎薄
薄は、風になびいてたわみ、隣の草と重なり交差すると呼び名が「尾花」に変わります。「なびき」「たわむ」草姿は、いきものの交わり、生命の象徴になぞらえられました。また、薄は屋根を葺く材料ともなり、その際には「茅(かや)」「草(かや)」と呼ばれています。さらに茎根は煎じて飲むと風邪に効き、利尿作用もあるので大変有用な植物です。

 

秋の野のみ草刈り葺き宿れりし
宇治の京の仮廬し思ほゆ

巻第1 額田王

「秋の野で茅を刈り屋根を葺いて宿にした、あの宇治の都の仮の住まいが懐かしく思い出されることです」

額田王と同じく、私にも薄の懐かしい思い出があります。高校生の頃、毎日学校帰りに通っていた和菓子屋があり、ご主人のおじいさまともすっかり顔馴染みでした。ある秋の日、雲行きが怪しい夕方に立ち寄ると、帰りがけに「雨が降りそうですから、薄をお持ちなさい」と言って大きなひと枝をくださいました。帰る道の途中、何故「雨が降るから薄」なのだろう?と不思議に思い、後で辞書を引いてみたところ、古くから薄が屋根の材料に用いられていたという解説がありました。いわゆる茅葺き屋根の「茅」と野原の「薄」は全く別のものだと思っていたので、なるほどといかにも納得したと同時に、そんな洒落たおまじないをしてくださったご主人の温かい心遣いに、何とも言えず嬉しい気持ちでした。薄のおまじないのお蔭で濡れ鼠にならずに家にたどり着いたことを、今でも優しいお菓子の味わいとともに憶い出します。


[参考]
 ◎「万葉の花」庄司信洲 学習研究社

 ◎「萬葉の茶花」庄司信洲 井上敬志 講談社

 ◎「茶花萬葉抄」庄司太虚 河原書店

 ◎「ハーブ万葉集」大貫茂 誠文堂新光社

 ◎「紀州本万葉集 巻第8」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能

 ◎「紀州本万葉集 巻第10」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能

 ◎「紀州本万葉集 巻第1」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能


[関連記事]

 ◎「万葉植物をいける:桃・枝垂柳・山吹・嫁菜」
  桃の節句にいけたものです

 ◎「万葉植物:三椏」
  万葉植物の中でもなかなか実際に目にする機会のない三椏(みつまた)の花が咲いているのを、奈良の春日大社神苑 萬葉植物園で見つけました

 ◎「万葉植物をいける:菖蒲・杜若・山藍」
  端午の節句にいけたものです

 ◎「万葉植物をいける:茅萱・藪萱草/萱草・笹百合・紫陽花」
  夏越の祓によせて茅萱などをいけました


[写真]

 ◎姫百合・朝顔(桔梗)・薄・唐糸草・満天星(ドウダンツツジ)

0 件のコメント:

コメントを投稿