先日、USTREAMの音楽番組「MUSIC SHARE」のライブに出かけました。女の子だけのユニット「惑星アブノーマル」の迫力ある生演奏を、本当にすぐ目の前でみることができ、贅沢なひと時でした。
ライブの魅力は、演奏する人と聴衆の「息が溶け合う」感覚にあると思います。これは、自宅のスピーカーで聴いているとあまり感じないものです。惑星アブノーマルの演奏中も、彼女たちの息の渦と一緒に「肚」の中に吸い込まれるような気分でした。
◎音楽と息
音楽と息には大きな関係があるといいます。ある心理学者の実験によると、もともと吸う息とはく息のリズムが合う者同士は、合奏時によりよく息を合わせることができるそうです。また、演奏家同士、元々の息のリズムが異なっていた場合には、演奏技術が高ければその「息の合わなさ」を克服して息の合う演奏がつくれるし、演奏技術が低ければ、ぎこちない演奏になってしまうという実験結果が出ています。
では演奏家と聴衆の息の関係はどうか、と考えてみると、もちろん様々な要素が関わるはずですが「息の交わり」が両者の間に生まれたときに、その場にハーモニーや快感が生まれるのではないでしょうか。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のソロ・ハーピストに25歳という若さで就任し、ウィーン・フィル史上伝説のハープ奏者と言われる(しかも美男子)グザヴィエ・ド・メストレは、あるインタビューで興味深い発言をしていました。彼は、演奏家であることの醍醐味が「聴衆を手中におさめる感覚」にある、と言います。これはきっと、彼の意のままに聴衆の気を吸い込み、それを自らのエネルギーにして再びホールいっぱいに音を散りばめ、聴衆を包み込んでしまうことなのではないかと想像します。グザヴィエ・ド・メストレのような魔術師はさておき、元々息の合う演奏家と聴衆の間には、幸福な時間が約束されているのかもしれません。
余談ですが、息が合うとか合わないという話は、音楽だけでなくスポーツやビジネス、また男女の間にも当てはまりそうです。例えば、結婚相談所へ行けば相手に希望する項目を相談所に伝えると思うのですが(私は経験がなく詳しいことは分かりませんが・・)、その項目に「息のリズム」を入れてみてはどうかなと思ったりします。相性の良い人が思いがけず見つかるかもしれませんし、持続的・長期的な関係に向けた相性を占うときの「絞り込み条件」としてうまく機能しそうな気がします。
◎息で演奏する
2009年、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人初の優勝を飾った辻井伸行氏の快挙を伝えるニュースが日本中に流れ、一気に話題が沸騰しました。コンクールの裏話に、彼は全盲で英語が話せないため、競技の際に一緒に演奏する人たちや指揮者は当初、どうやってタイミングを合わせようか心配した、という後日談があります。特に、出だしからいきなりオーケストラと同時にピアノの音を出す必要がある曲は、指揮者の動きが見えないのは困るだろうという話になったのです。
しかし、それは全くの杞憂に過ぎませんでした。辻井氏は、共演者の「息の音」を聞いてタイミングを合わせているのでした。演奏の後、指揮者が「視覚によるよりもはるかに容易なコミュニケーションがとれた」と述べていたのが印象的です。私も一度だけ辻井氏の生演奏を聴いたことがあるのですが、演奏の様子をみたときに感じたのは、彼が息を聞くだけではなく、読んでいること。そして、おそらく聴衆のざわめきや息遣いも聴いて、読んでいるのだろうということでした。
◎視覚以外で「みる」こと
辻井伸行氏がコンクールで優勝を勝ち取った時の武勇伝をテレビなどでみていて思い出したのは、江戸時代の優れた学者、塙保己一の逸話です。保己一は幼い頃に病で失明しましたが、学問の道を強く志して励み、ついに盲人の役職として最高位の検校となりました。その保己一があるとき講義をしていると、風が吹いてろうそくの火が消えてしまい、弟子たちが暗闇で慌てて騒ぎだしました。すると保己一は「眼が見えるというのは不自由なものですね」と言ったそうです。
生演奏に限らず、様々な場面で「息」をみたり感じたりすることで、また違った発見がありそうです。
[参考]
◎「息のしかた」春木豊、本間生夫 朝日新聞社
呼吸の仕組み解説からはじまり、呼吸と心の関係や呼吸が心に及ぼす効果、さらに呼吸と人間関係についての話が易しく紹介されています。また、能、武道、ヨガ、スポーツなど各方面の専門家がそれぞれの呼吸法について述べている章もあり、大変興味深いです。
◎「心理学的考察 いきが合う」古浦一郎 北大路書房
合奏における息の合う合わないに関する実験の他、日本舞踊や書道、武道の呼吸についての実験結果も紹介されています。
[関連記事]
◎「良い音」
人はカラダのどこで音を聴くのか?この回では、人が皮膚でも音を聴いていることについて取り上げました。
[写真]
◎唐辛子
最新の研究によると、相性の良い隣の植物の音を「聞いた」植物は、単独で生えているときよりもよく育つのだそうです。唐辛子にとってバジルは「良き隣人」で、そばに植えるとより早く発芽し、健やかに生長。一方、ハーブの一種であるフェンネルなどの「悪しき隣人」に囲まれたときにもそれを認識し「互いに影響し合っている」というデータが。植物には様々な「感覚器」があることが証明されているようですが、人間と同じように息が合うとか合わない、という関係もあるのかもしれません。
(参考:National Geographic News 2013年5月8日)
[音楽番組MUSIC SHAREのライブの模様はアーカイブで観ることができます]
惑星アブノーマルのライブ&トークの他に、同じく女の子だけのユニットCharisma.comのトークもあります
◎惑星アブノーマルHP
見た目は少女の面影を残す女の子たちのユニットですが、音が出た瞬間にその印象が吹き飛びました。
◎Charisma.comHP
*YouTubeに投稿した動画が話題を呼び、デビューした二人。POPなようでいて毒のある歌詞が持ち味です。
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