本日は旧暦で皐月五日、端午です。
菖蒲の節句ということで「菖蒲」を主としました。
※写真は先月立夏の後にいけたもので、杜若の代用として文目を用いています。
◎あやめぐさ
菖蒲は、万葉時代に「あやめぐさ」と呼ばれていました。花の美しいアヤメ科の「あやめ」のことではなく、サトイモ科の葉菖蒲です。花はまるで蒲の穂のような茶色。江戸時代には「実」と呼ばれ、「実付きの葉」といえばあやめぐさを指したとのことです。
端午の前夜に菖蒲と蓬を軒先に吊るして翌日の節句を菖蒲湯にするのは、これらの植物の芳香で邪気払いをする習慣が中国から伝えられたことによります。古の人たちは、あやめぐさの「花」に力があると考えていたそうで、咲かないものからはエネルギーをもらうことができないとされていました。ですから、薬湯には「実付きの葉(もちろん根も)」を用いるのですね。
ほととぎす待てど来鳴かず菖蒲草
玉に貫く日をいまだ遠みか巻第8 大伴家持
「杜鵑を待っているのに、まだ来て鳴かない。菖蒲を薬玉に挿し飾る端午の節句がまだ遠いからだろうか」
古代薬玉の植物とは、さつき、せんだん、はなたちばな、蓬、菖蒲。花々の中央に麝香や沈香などの香薬を入れた袋を飾り、結んだ五色の糸を長く垂らして健康長寿を祈りました。五つの植物のうちさつき、せんだん、はなたちばなは予め造花でしつらえ、端午の当日に蓬と菖蒲の生花を挿して薬玉を完成させるのが古式なのだそうです。ぜひお手製の薬玉をつくってみたいものです。端午に飾った薬玉は、菊の節句のときに外します。
◎杜若
かきつばた衣に摺りつけ丈夫の
きそひ猟する月は来にけり巻第17 大伴家持
「杜若の花を衣に摺り染めにして、きそって恋人を探し求める日が、いよいよ来た」
杜若は古代の染色ハーブ。邪気を払う呪力があるとされていました。花の青紫は邪気を払う色。衣に摺り染めにするのは、植物の生命力を身体に取り込み、自分のエネルギーにするためです。聖なる青紫色には、恋心に迷いも偽りもないという気持ちを込めたそうです。
「猟する」とは男性が馬に乗って薬用の鹿の角狩りをするという意味で、端午の薬狩は古の公の行事でした。一方女性は薬草摘みに園に出かけました。端午の節句は恋を成就させて成人になるための行事の日でもあったのです。
◎山藍
藍染めには古来、山に自生する山藍が用いられていましたが、タデ科の蓼藍が栽培されるようになってからは、そちらが藍染め用植物の中心になったそうです。
・・・紅の赤裳すそびき山藍もち すれる衣着てただひとり い渡らす児は若草の 夫かあるらむ・・・
巻第9 作者未詳
「紅染めの赤裳の裾を引いて、山藍で摺り染めにした着物を着て、ただ一人で橋を渡るあの娘には夫がいるのだろうか」
くれない染めと山藍染めの衣をまとった女性の、色彩の印象が鮮やかに浮かびます。
写真の山藍は、花が終わって実がついています。後に一輪挿しにして長い間飾っていたら、不意にパチンと音がして、種が次々と勢い良く弾け飛びました。葉の活き活きとした緑色といい種の勢いといい、強い生命力を感じる植物です。
皐月は入梅の頃で夏至を迎える月。一年のうちでも最も大きなエネルギーの変化が生じるこの時期は、かつては疫病の発生する頃。現在でも体調を崩す人が多くなる頃ですが、ちょうど植物の生命力が強くなるときでもあります。力強い芳香と呪力に満ちた植物で邪気払いをして、夏を健やかに過ごせますように。
[参考書]
「紀州本万葉集 巻第8」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能
「紀州本万葉集 巻第17」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能
「紀州本万葉集 巻第9」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能
[写真]
菖蒲・文目(杜若の代用)・山藍
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