2014年3月25日火曜日

万葉植物:三椏


週末に、奈良のお気に入りスポットの一つ、春日大社神苑 萬葉植物園へ行きました。ここはゆっくりと静かに過ごすことのできる場所で、どの季節に訪ねても素敵な発見があります。

今回は、可愛いお花が入り口から出迎えてくれました。

三椏の花20140322

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三椏(みつまた)の花です。

まるでふわふわの砂糖菓子のような白と黄の花が、三つに分かれた枝先についています。淡い芳香も。


万葉の歌には「さきくさ(三枝)」という名で登場します。「さきくさ」がどの植物のことなのか・・昔から諸説ある中で、現在は三椏説が有力なようです。

春さればまづさきくさの幸くあらば後にもあはむな恋そ吾妹

柿本人麻呂歌集

 

三椏は、枝先が必ず三つに分かれます。たとえ別れても元はひとつ、というその生態にからめて、この歌では離ればなれになったとしてもまた出会えましょう、というのです。


◎さきくさと、幸と咲
「さきくさ」のあとに「幸く(さきく)」と続くのはとてもオシャレだなあと思います。
「さきくさ」の「さき」は本来植物のことではなく「幸く(さきく)」の意味で、繁茂や繁栄のしるし。おめでたい、幸福を呼びこむ植物という意の呼び名です。ちなみに、「幸はふ(さきわう)」は、植物の繁茂が人に幸福をもたらす、という意味から成立した言葉といわれています。ことばと自然が一体になっているのですね。

さらに「幸(さき)」は「咲き」とも掛けていることでしょう。「咲く」は「栄え」や「盛り」とつながることばで、蕾がひらくという意味以外に、何か喜ばしい出来事があるのを表現するときにも使われていました。
いつわりのない植物に例えることでいっそう、思いの強さがあらわされているようです。

 

街で見かけることのほとんどない三椏ですが、古代中国から有用植物として日本に渡り、長く強靭な枝の繊維が紙の原料として活用されてきました。特に紙幣に欠かせない素材として知られます。ゆえに、現在でも和紙の生産地近くでは栽培されています。


萬葉植物園では、ちょうど見頃の座論梅にも出会いました。

座論梅20140322

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日大社神苑 萬葉植物園 HP


[参考書]

「万葉の花」庄司信洲 学習研究社
「萬葉の茶花」庄司信洲 井上敬志 講談社
「茶花萬葉抄」庄司太虚 河原書店
「ハーブ万葉集」大貫茂 誠文堂新光社
「古典基礎語辞典」大野晋 角川学芸出版
「紀州本万葉集 巻第10」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能

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